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8月護摩のお話

猛暑の中、お参りいただきましてありがとうございます。

明日は8月15日、終戦記念日です。この暑さでこの日のことを考えてしまいます。
8月4日は比叡山で世界の諸宗教の代表者が集まり恒例の平和の祈りと平和へのメッセージを唱えました。

最近ある方に薦められて、ヘレン・ミアーズの著作、『Mirror for Americans: Japan』 (アメリカの鏡・日本) を読みました。

彼女はマッカーサーの日本占領時のスタッフとして派遣され、46歳で戦後日本の労働基本法の策定に携わった人で、48歳の時に本書を著わしましたが、マッカーサーから日本での翻訳を禁止されました。

何故マッカーサーが発禁に? これはお読みになれば当然分かりますが、ここまで日本を公正に分析した人が女性の、しかもアメリカ人であることに驚かされました。

小さい字で書かれた400ページ。極めて多くの引用や、詳細な脚注、膨大な資料に基ずき事実を誇張もなく実数で確実に記し、大げさな言葉による誇張は一切なく、云わんとすることを強烈に伝えています。

私は読み進む内に、日本人の、特に戦争を知らない若い世代の必読の書であると思いました。
終戦の日、私は敗戦の日と呼んでいますが、明日にこの日を迎えて、何故日本は戦争に向かったのか、そして何故、根こそぎ徹底的に敗れたのか。日本の進んだ道は、何故、アメリカ人達、この達には、イギリスやフランスを含めた西洋人達の意も含まれているようですが、これらの人達の鏡が日本なのか。

彼女の透徹した日本人、日本そのものへの理解の深さを知り驚かされました。

日本が何故泥沼の戦争に入り込んでしまい、広島、長崎、そして占領による洗脳となったのか。

彼女は、全ては(アメリカの)ペリーの黒船による不平等開国から始まったと記しています。
日本を半植民地化する西洋強国の強大な圧力は、それは生麦事件、長州事件を通じて後の新政府の首脳に強烈に叩き込まれた。と記します。

日本の乏しい資源、その中で自給自足してきた江戸時代までの日本は、米を経済の中心に据えた、乏しい中で、「足るを知る社会」であった。足らないところを茶の湯、生け花、和歌 等の精神的なものに求めたと記しています。

肝に命じられた明治新政府は、西洋列強に植民地化されないために、富国強兵政策を強行。
しかし西洋列強に負けない軍備と国力は乏しい資源では無理。従って全てを輸入に頼るが、そのためには輸出に依存せざるを得なかった。しかしアメリカの関税は生糸を除き殆ど100%から、200%と極めて高率であった。日本の血の滲む努力。

そして日本の底力は、日清、日露戦争に勝ち、第一次世界大戦では勝ち組みに組した。
この辺の詳細な記述があります。

日露戦争のもたらした西洋列強へのインパクトは極めて大きく、日本は有色人種で初めて五大国に列せられた。1931年までの日本の成長はまさに西洋の先生から卒業証書をいただいた段階となった。
それは西洋列強の写し、つまり鏡であった。

しかし1931年の満州事変が大きなミステークであった。
それでもその後の10年は、事態を収束できた可能性があったが、不幸にも日本は判断を誤った。

その後の列強は、日本を徹底的に潰す方向に一致し、それはロシアのしたたかな動きをイギリスも牽制しないほど過酷なものとなった(ヤルタ会談)。原爆投下もその延長の1つ。

しかし彼女は、この書で原爆投下はアメリカの犯罪だと明言しています。
日本が終戦の3ヶ月前、既に飛ぶべきゼロ戦も、燃料も、パイロットも無く、主要な都市は焼け野原となり高射砲はB29の高度に達することができない状態の中で、何とアメリカは、B29を1000機保有していた。
原爆投下は戦争終結のために絶対に必要ではなかった。日本は既に壊滅状態だったのだと。それも原爆は無差別に市民を殺戮した。
アメリカ政府は、この戦争は自衛のための戦争だと、アメリカ市民には云っていたが、自衛とは相手を殲滅することなのかと。彼女は厳しく記しています。

皮肉にも、占領後、あまりの日本の疲弊は、俄かに問題となり始めた共産主義の脅威の前に日本を前哨基地にするという、新たな役割と思惑から方向転換をせまられた。

彼女が云うことを役だてるとすれば、ペリー襲来から始まった日本の富国強兵政策は、日本が真の独立を確保するための最低条件であったが、資源のない日本はそれを維持するために、西洋列強との利害を巧みに使い分け、日本単独では不可能なことを肝に銘じなければならない。

彼女が今、存命であれば、日本は戦後、独立し、高度成長を遂げ、世界に再び認められていても、依然として残る米軍基地、地位協定 米国製の原発の導入、日本国憲法 固有の北方領土さへ認められないというこの事態は、真の独立国家ではないと彼女は云うと私は思います。

そしてこの異常な円高も、アメリカの利害を座標軸においた、ペリーから始まるアメリカの世界戦略ではないかと、私は思います。

このまま円高が定着すれば、日本の産業は空洞化して、雇用は深刻な事態を招くでしょう。
日本の存亡にかかわる深刻な問題のはずです。

敗戦の日を前に、政治や経済の中枢にある方々は、日本の行く末について、もっと真剣に、もっと深読みして、対処していただきたい。 

日本はアメリカに対して、利害ある国と結託して、巧みに戦う必要があると思います。

戦後は遠くなっていない。
皆さんにも大いに関係のあることだと思い、あの敗戦の日に思いを致し、お護摩を勤めます。

カテゴリ: 門主のお話 | 2011年08月14日 | コメント(3) | No Trackbacks

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